合氣道のこたえあわせ ― お寿司屋さん編
町田市内で50年続く、老舗のお寿司屋さんを訪れました。
ご主人は、とても穏やかで落ち着いた雰囲気の方です。伺うたびに、お寿司についていろいろなことを教えてくださいます。
この日、ご主人との会話の中で、とても心に残る言葉がありました。
「今でも板場に立つと、緊張するんですよ」
50年も寿司を握り続けてきた職人さんです。私は少し意外に思い、
「今でも緊張するのですか?」
と尋ねました。
するとご主人は、
「自分が納得できる寿司を握れたか」
「お客さんは、どう感じているのか」
今でも、いつもそのようなことを考えているのだと話してくださいました。
お寿司を出したあとは、緊張して、お客さんの顔をなかなか見られないこともあるそうです。
そして、その緊張感があるからこそ、よい仕事ができるのだといいます。
この話を聞いたとき、私は合氣道の稽古や指導とよく似ていると思いました。
私も、もともと緊張しやすい性格です。
カラオケでは、歌い始めは渡哲也のような渋く低い声だったのに、緊張した瞬間、一瞬にして森田健作のような突き抜けるような高い声に裏返ってしまったこともあります。
そんな私ですから、人前に立つときや、昇級審査で審査を行う時は、今でも緊張します。
一般的には、「緊張しないほうがよい」と考えられがちです。
しかし、本当にそうでしょうか。
緊張するのは、それだけ目の前のことを大切にしているからかもしれません。
合氣道でも、大切なのは緊張を完全になくすことではありません。
緊張から逃げずに向き合い、その力をよい方向へ生かしていくことです。
適度な緊張感があるからこそ、心が研ぎ澄まされます。
相手をよく見て、一つひとつの動作を丁寧に行うことができます。
お寿司と合氣道。
一見すると、まったく畑違いの世界です。
それでも、一つの道を長く真剣に歩み続けた先には、同じような境地へたどり着くことがあるのかもしれません。
緊張は、必ずしも悪いものではない。
目の前の人や、今取り組んでいることを大切に思う気持ちが、緊張となって表れていることもあります。
大切なのは、緊張に振り回されるのではなく、その緊張を自分の力へと変えていくことです。
50年の職人さんとの何気ない会話から、今回もまた一つ、「合氣道のこたえあわせ」ができたような気がしました。